お風呂は日本人にとって欠かせない、一日の疲れを癒してくれる大切な習慣。
しかし年を取って体の不自由が増すにつれ、自分一人では思うように入浴ができなくなってしまう方も多くいらっしゃいます。そういった方々には“入浴介助”という形でご家族や看護師や介護士による助けが必要になってきます。
当記事では、特にご家族のかたが入浴介助を行う際に知っておきたい手順やポイントについて解説しています。
慣れない入浴介助で不安は尽きないことと思いますが、基本事項をしっかりと身に着けることで、少しでも被介助者の方にとって楽しいお風呂の時間にして頂ければと思います。
入浴介助の効果&目的って?
身体を清潔に保つ
入浴の一番の目的は“体を清潔に保つ”ということ。清潔を保たなければ衛生状態も悪化し、感染症のリスクも高まり健康にも大きな影響を与えてしまいます。
リラックス・リフレッシュ
高齢者の方にとっては、入浴は“身体の清潔を保つ”といった物理的な意味だけではありません。若い人のように自分が好きな時に好きなように出掛けることが難しく、何をするにも自分が思うようにスムーズに身体を動かすことも出来ない。そんなジレンマやストレスばかりを1日中抱えて過ごす高齢者のかたにとって、お風呂は大切なリラックス&リフレッシュの時間でもあります。
前述の通り、体の清潔を保つことはもちろん、入浴は高齢者のかたの精神面にも影響しているという点を念頭に、本人が心からお風呂を楽しんで頂けるよう介助していきましょう。
高齢者の入浴で起こり得る事故を知ろう!
ヒートショック
お風呂場という暖かい場所から脱衣所や部屋などの急激に温度が下がる場所へ行くことで、血圧が急激に変化することにより心筋梗塞や脳卒中などの症状を引き起こしてしまいます。ヒートショックの件数は年間5000人以上ともいわれ、高齢者の発生件数が大半を占めています。
対策は、脱衣所や部屋の室温を温かくしておき、お風呂との温度差を少なくしてあげることが一番です。また。高齢者がひとりで入浴する場合は常に声を掛けてあげることで安全が確認出来るため有効です。
のぼせ
長時間の入浴や温度が高いお湯に浸かることで主に頭や顔が急激に熱くなり、発熱・頭痛・発汗・めまいなどの症状が出現します。一見入浴時によくある症状だと勘違いしてしまうため見落としてしまいがちですが、場合によって医療機関での治療が必要となることもあります。
対策は長時間の入浴を避け、こまめに水分を取ること。入浴中のこまめな声かけなどが有効です。
転倒
お風呂場のような浅い水量で溺れるということはにわかに信じ難いことですが、事実として入浴時の溺死は存在します。
主な原因は入浴中の居眠りで、入浴で心も身体もリラックス状態になりついうたた寝をしているうちに顔までお湯に浸かってしまいます。気が付いたらパニックになってしまい顔を上げるという簡単な動作ですら出来ない状況になってしまっているため、溺れてしまうのです。高齢者の方は加えて身体が思うように動かないため、溺死の割合も高くなってしまうのが現状です。昨今ではお風呂もゆったりと座れるように足が伸ばせるタイプが主流です。しかし、返って広々とした構造が仇となる場合もこのようなケースではあります。
一番の対策はお風呂場でのうたた寝をやめることです。ご家族のこまめな声掛けが溺れの事故から大切な家族を守る一番の方法となるでしょう。
やけど
お風呂の湯温といえば、高くても42~43℃のため入浴中にやけどというと想像が出来ないかもしれませんが、高齢者に関してはあり得る話です。高齢になり身体が少しずつ不自由になってくると、感覚自体が鈍感になってきます。
例えばお風呂のお湯を沸かす部分に足を近づけて「熱い!」と思えば普通であれば足をどかします。しかし、高齢者はその熱さに気がつかないことがあるのです。
対策はお風呂の機能により異なりますが、自動調節機能などがある場合は高齢者が入浴する場合は機能をオフにしておくなどの対策を取ることが一番です。
熱中症
熱中症は、高温&多湿な環境下に長い時間いることが原因で起こります。症状としては体温の調整機能が正常に働かず、頭痛やめまい、意識障害、けいれん、吐き気など様々なものが挙げられます。お風呂はまさに“高温&多湿”な環境ですので、熱中症のリスクも当然高くなります。具体的には、入浴中に体温が40℃を超えると発症し、事故に繋がる恐れがあります。そのため、入浴介助において、高すぎる湯温での入浴や長湯は禁物です。
脱水症状
お風呂場は湿度が高いため一見脱水を感じにくい空間ですが、身体からは大量の汗が出ているため非常に脱水症状を起こしやすい空間です。
入浴前後にはしっかりと水分を摂取しておくことが大切です。
入浴介助で必要なものを揃えよう
不幸な事故を起こさず、毎日リラックスした入浴時間を高齢になったご家族の方に過ごしてもらうためには、介助が必要です。
そこで実際にどのようなアイテムが入浴介助には必要になってくるのか、ご紹介していきます。
入浴介助で必要なアイテム【被介助者】
バスタオル
ヒートショックを防ぐためにも入浴後は素早く身体を拭く必要があるため、少し大きめの厚手のバスタオルがおすすめです。
着替えやおむつ等
出来るだけ裸で居る時間をさけるためにも、着替えやおむつ等は予め用意して置いておきましょう。
ボディソープまたは石鹸
基本的には好みのボディーソープや石鹸で大丈夫ですが、介助者が洗ってあげる場合は極力手が荒れない刺激の少ない無添加性のものを選ぶと良いです。
ボディタオル・スポンジ
高齢者の肌は弱く荒れやすいため、ソフト素材のボディータオルやスポンジが好ましいです。
入浴補助具
入浴時に便利な補助具は次項でご紹介しています。
保湿剤・塗布薬・爪切り等
お風呂上りは肌が乾燥しやすいため、保湿剤や塗布薬を使用することをおすすめします。また入浴後は爪をスムーズに切ることが出来るため爪切りがあると良いでしょう。
入浴介助で必要なアイテム【介助者】
エプロン(防水・撥水性)
お風呂場での水滴で衣服が濡れないように、防水・撥水加工のエプロンを着用することをおすすめします。想像以上に水滴が掛かることがあるため少し大きめのエプロンがおすすめです。
ゴム製の靴
滑りやすいお風呂場でスリップをしてしまわないように、足裏に滑り止め加工がされたゴム製の長靴がおすすめです。
手袋
介助用手袋の種類は多いですが入浴時には入水や洗髪などの水仕事が中心となるため、防水・手荒れを防ぐという観点からもロングタイプのゴム製手袋を着用することをおすすめします。
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入浴介助の手順と注意事点
入浴前の手順
1.必要な用具を揃える
入浴介助中は介助者は常に被介助者から目を離せませんので、前項でご紹介した必要な用具は、必ず事前に準備するようにしましょう。
2.被介助者の体調確認(体温・血圧等)
体温・血圧・脈拍などのバイタルチェックをして、いつもと異なる数値が出た場合は入浴は中止しましょう。
3.脱衣所&浴室を温める
ヒートショックを防ぐためにも脱衣所と浴室の温度差は極力少なくしておきましょう。脱衣所に暖房器具などが持ち込めない場合は、しばらく浴室を開けておくだけでも脱衣所の室温が温まり室温差がなくなります。
4.湯舟の温度を確認する
湯船の湯温は37~39℃のぬるめの設定にしましょう。お湯が高すぎると様々な事故に繋がります。
5.水分補給する
入浴中の脱水症状は深刻な入浴事故にも繋がります。入浴前後にはしっかりと水分を補給しておくことが大切です。
6.トイレを済ませる
入浴中は身体が温まることで消化器官が活発になりやすく尿意や便意が生じやすいです。高齢者になれば移動も一苦労のため、入浴前には必ずトイレを済ませておきましょう。
入浴中の手順
7.椅子など触れる箇所に湯をかけて温める
浴槽の縁の部分や手すりなどを予め温めてあげることで、実際に触れた時に「冷たい!」と感じることがなくなりヒートショックの予防にも繋がります。
8.足元から湯をかけて温める
いきなり身体の中心(心臓)へお湯を掛けると身体がびっくりして血圧や脈拍が急激に上昇してしまうおそれがあります。まずは身体の中心(心臓)から遠い足元からお湯を掛けながら徐々に中心へとお湯を掛けてあげましょう。
9.髪→顔→上半身→下半身の順に洗う
基本的には「心臓から遠い場所」からお湯を掛けることが望ましいため身体を洗う順番も頭から顔へと洗っていく順番が望ましいです。麻痺がある方でも出来る限りは洗える場所は自分で洗ってもらうことでリハビリへと繋がります。
10.浴槽に入ってもらう
あらゆる入浴事故を防ぐためにも長風呂は禁物で、入浴時間10~15分程度が理想的です。
入浴後の手順
11.水分をしっかりふき取る(足裏まで)
身体に水滴が残っていれば身体の冷えに繋がるだけでなく、足裏などの見落としやすい水滴を拭きとっておかなければ転倒事故に繋がる危険もあります。バスタオルは全身をしっかり拭き取れるように大きめのものを使用しましょう。
12.保湿剤や塗り薬の塗布
湯上りは身体から水分が抜けてしまうため乾燥しやすいです。肌荒れや乾燥肌を防ぐためにも保湿剤や塗り薬を塗っておきましょう。
13.水分補給
お風呂上りは身体から水分が抜けているため脱水になりやすいです。しっかりと水分補給を行い脱水症状を予防しましょう。
14.体調チェック
体温・血圧・脈拍などのバイタルチェックを行いましょう。また、気分が悪くないか?寒気はしないか?などいつもと体調の変化はないかの主観的チェックも行いましょう。
注意点
水分補給は必須
入浴中の脱水症状は深刻な入浴事故にも繋がります。入浴前後にはしっかりと水分を補給しておくことが大切です。
空腹時&食後の入浴は避ける
入浴は想像している以上に体力を使います。空腹時や食事直後の入浴は血圧や血糖値などが不安定になりやすく体調を崩してしまう原因となる恐れがあります。食後であれば1時間程度は間隔を開けて入浴することが望ましいです。
移動時の転倒に注意する
浴室内で体を動かす際に注意するのはもちろん、浴室へ向かう途中の移動でも、介助者がしっかりと体を支えゆっくり移動するようにしましょう。
声をかけながら行う
介護をする際に、声かけをすることはとても大切なことですが、入浴介助の際にもそれは同様です。何も言わずにいきなり体を触られると、被介助者が驚いてしまい嫌悪感を持ってしまう場合も。また声かけをすることで、被介助者の異変にも気が付くことがでいますし、信頼関係を築くこともできるので、この“声かけ”は必ず行うようにしましょう。
安全を最優先する
介助中は神経を使いますし色々な点が気になってしまうかと思いますが、とにかく”安全”を第一に考え、落ち着いて入浴をしてもらえるようにしましょう。
事故なく快適に!入浴介助を助けてくれる介助用品
それでは実際に、事故なく快適な入浴時間を過ごすための手助けをしてくれる介助用具をご紹介していきます。
介助用具は個人の介護度やどの程度自立して身体を動かすことが出来るかにより異なります。ここではストレッチャーなどの大型の介助用品ではなくご自宅のお風呂場でも導入が出来る介助用具をご紹介していきます。
シャワーチェア
シャワー中の身体に負担が掛かりにくい楽な姿勢を保つための椅子です。
すのこ(浴室用・浴槽内)
フラットなバスマットを敷くことで転倒防止や冷たい風呂床に足を乗せることなく快適な入浴時間を過ごすことが出来ます。
バスボード
浴槽の両縁に掛けて使うボードのことで、浴槽の中に安全に入るための手助けとなります。特に回転ボードがついているタイプは昇り降りがスムーズに出来るため便利でおすすめです。
浴槽用手すり
浴槽出入りを安全にスムーズに行うための浴槽用の手すりです。工事不要で取り付けられるものなどが販売されています。
浴槽内いす
浴槽内の椅子を置くことで膝や腰に負担を掛けることなく入浴が出来るメリットがあるうえに、浴槽への出入りの際の踏み台として使用することが出来ます。
入浴介助ベルト
特に車椅子からの立ち上がり時などに使用され、入浴介助ベルトを付けることで介助者・被介助者の双方の身体の負担を軽減させながら立ち上がりの動作を取ることが出来ます。お風呂場で使うベルトになりますので撥水加工のベルトがおすすめです。
入浴介助には多くの介助用具や介助方法があります。もちろんご自身一人の力で限界を感じた場合は、訪問介護サービスなどのをご利用頂くことも視野に入れることをおすすめします。
自分一人で全部やってのけようとしてもやはり限界があります。色々なサービスや介護職の方などプロの力も借りながら介護・介助を行っていきましょう。
バスリエでは、入浴介助に関するアンケート調査を行っています。是非ご協力をお願い致します。
※被介助者様、介助者様用と2つに分かれています。
【被介助者様向けのアンケート】
【介助者様向けのアンケート】