入浴時の熱中症に関わる
意識調査
お風呂は温泉やサウナも含め私達、日本人にとっては生活に欠かせない習慣と言っても過言ではありません。
しかし近年、高齢者を中心に入浴に関わる事故で亡くなる方が増えています。
そして私達は、お風呂技術を身につけることで「入浴事故をゼロ」にしたいと考えてきました。
(意識×知識×経験=お風呂技術)
そんな中、新型コロナウイルスの影響で「手洗い」に対する意識が世界中で変革していくのを目の当たりにし、入浴事故も意識改革を促すことからはじめたいと考えました。
ぜひ、入浴時の熱中症に関わる意識調査にご協力いただけますようお願い申し上げます。
熱中症の症状と原因
熱中症にはどんな症状があるのか?
熱中症の主な症状としては、
のぼせ、めまい、湯あたり、気分不良、動悸、意識消失、冷汗、虚脱感、自力脱出不能、顔色不良、頭痛、嘔吐
などがあります。
熱中症のレベル(軽度/重度)とは?
熱中症の症状にも、軽度・重度のものがあり、重症度によってⅠ~Ⅲ度に分かれています。Ⅲ度熱中症は、救急搬送が必要な状態であり、脱水による臓器血流の低下と虚血、高体温による多臓器不全がより重症化して、死に至る可能性があります。
熱中症のレベル
Ⅰ度
めまい、立ち眩み、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)
Ⅱ度
頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下
Ⅲ度
意識障害、小脳症状、痙攣発作
※出所:環境省 熱中症健康保険マニュアル
そもそも入浴における熱中症の原因とは?
入浴中に40.0℃を超える体温になってしまうと熱中症の症状が出始め、意識障害が起き、事故につながる可能性が高くなります。
どれぐらいで体温が40℃に達してしまうのか。全身浴で37.0℃の人の体温が3℃上昇し、40.0℃になる湯温ごとの体温予測モデル(以下、参照)が参考になります。
人の体温が40℃に達する湯温別の体温予測モデル
「体温が40℃に達するまでの入浴時間と湯温の相関関係」
- 湯温が41℃で33分
- 湯温が42℃で26分
- 湯温が43℃で21分
- 湯温が44℃で18分
- 湯温が45℃で16分
高齢者に入浴事故が多い理由
高齢者は神経系の老朽化により、環境変化への適応能力が低くなっており、とくに高温環境下では、発汗作用が弱く、体温調節が行われにくいです。
そのため、湯の熱さを感じず、長風呂しすぎてしまい、熱中症に陥る傾向があります。
入浴に関わる事故
近年、日本の高齢化が進む中で、そのお風呂を起因とした事故が年々増加傾向にあります。
2018年の入浴事故によって救急搬送数された件数は、57,590件(総務省調査)で、2015年に比べ5000件以上増加しています。
このような状況を鑑み、誰もが入浴を安心・安全に楽しむため、「入浴事故をゼロ」にすることが必要です。
そのためには、「入浴時のリスク」をしっかりと理解し、入浴事故が起こらないための予防策を学ぶことが重要なのです。
「入浴時のリスク」には転倒やヒートショック、やけどなど様々なものがあります。
意外と知られていないのが、「熱中症のリスク」です。入浴時にも「熱中症のリスク」があるということをしっかりと理解しておきましょう。
千葉科学大学 黒木尚長教授(危機管理学部 保険医療学科)が調査した結果によると「入浴中に浴槽で体調を崩した高齢者のうち、8割以上が熱中症かその疑いがある」とも言われており、そのリスクの大きさが伺えます。
最近では若者もスマートフォンを浴槽で使用し、長風呂をする人が多くみられます。操作に夢中になることで身体の異変に気づくのが遅れ、知らない間に重症化するケースもあるのです。
また、ダイエット目的による意識的に長風呂するケースも見られており、どちらも実際に死亡事故が報告されています。熱中症のリスクは高齢者だけでなく、若者にも潜んでいるのです。
入浴時の熱中症予防法
入浴前
・お湯の温度は41℃以下にしましょう(短時間での体温上昇防止)
→ 42℃以上の熱いお湯に浸かると、血液が急激に上昇し、身体に多くの負担をかけてしまいます。
・浴室に時計を設置しましょう(長風呂防止)
→ 自分自身が何分間入浴をしているか、おおよそではなく、しっかりと認識することで予防につながります。
入浴中
・お湯に浸かる時間は30分までを目安にしましょう
→ 体温を40℃未満で保つために、30分以内での入浴がおすすめです。
入浴後
・鼓膜体温(耳式体温計)を測る習慣をつけましょう
→ 徹底した体温管理は、安全を確保するうえで非常に大切であり、熱中症にならないために重要な対策です。
※ 鼓膜体温とは、外気温に影響されにくい安定した中核温度を得ることができる体温計です。
その他
- アルコールを摂取している状態での入浴は、血行が良くなることで更に酔いが回る可能性あり、危険なため控えましょう。
- 長風呂を防ぐために、高齢者の場合は入浴する前に同居者に一声かけて見守ってもらいましょう。
対処法
軽度な熱中症の疑いがある場合の対処法
めまいや頭痛を感じるなど熱中症かなと思った時は、すぐに風呂場を出て、身体の脇・股・首を冷えたペットボトルや氷などですぐに冷やし、体温を下げることが大切です。
他には、スポーツドリンク・経口補水液などを補給することも効果的です。
重度な熱中症の疑いある場合の対処法
重度の熱中症(Ⅲ度熱中症)は、中枢神経症状(意識障害・小脳症状・痙攣発作)などがみられ、すぐに救急搬送が必要で、入院加療となります。
温浴施設などでもⅢ度熱中症の症状が出ている人を見かけた場合は、すぐに救急車を呼びましょう。
参考文献
- 著者:黒木尚長氏
(千葉科学大学大学院・危機管理学部 保健医療学科 教授)
「入浴事故の危機管理:なぜ、入浴事故が起こっているのか」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/simric/3/0/3_84/_pdf - 毎日が発見「体温42.5℃を超えると突然死も!? 長湯は要注意「入浴中の熱中症」」
https://news.line.me/articles/oa-mainichigahakken/ffe58e94b5e5 - 著者:中井誠一氏(京都女子大学家政学部 食物栄養学科 教授)「熱中症の疫学」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/64/1/64_77/_pdf
- 「ヒートショックとは?」日本医師会 健康トピックスhttp://www.kagoshima.med.or.jp/people/topic/2010/308.htm
- 「HPS法」HPSプロジェクト研究所https://www.youko-itoh-hsp.com/hsp%E3%81%A8%E3%81%AF/hsp%E5%85%A5%E6%B5%B4%E6%B3%95/
- 著者:岩手県立胆沢病院外科髙屋快 鈴木龍児 梅邑明子 鈴木雄 遠藤義洋 北村道彦「サウナによる熱中症にて遅発性に意識障害・DIC・肝機能障害をきたした1例」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/69/10/69_10_2725/_pdf