• お風呂の炭
  • pH入浴剤

水素入浴が変わったことをご存知ですか?

2019年の水素浴ブームとその後・・・

2019年頃、水素入浴は健康・美容業界で大きな注目を集めました。しかし同時に、科学的根拠の不足や過剰な効果宣伝、安全性への懸念から、多くの消費者が不信感を抱いたのも事実です。あれから数年が経過した今、水素入浴を取り巻く環境は大きく変化しています。特に、水素発生技術の革新により、かつての課題の多くが解決されつつあります。入浴科学の研究者として、最新の知見をもとに、現代の水素入浴がどのように進化したのかを科学的視点からお伝えします。

1.安全性:科学的検証が進み、技術革新が実現した現在

2019年当時の課題

当時は水素発生装置の品質がまちまちで、特に化学反応式の入浴剤については以下の問題が指摘されていました:

  • 発熱の危険性:アルミニウム+酸化カルシウムタイプは、化学反応時に発熱し、表面温度が90℃程度に達する製品もあり、火傷の危険が報告されていました[1]
  • 副産物への懸念:電気分解によって生じる塩素ガスや、一部の化学反応式で生成される副産物の安全性
  • 長期使用データの不足:継続使用における影響が不明確でした

現在の進展

医療分野での実績

  • 2016年に水素ガス吸入療法が厚生労働省の「先進医療B」に認定され、心停止後症候群に対する臨床研究が進められています[2]
  • 2007年にNature Medicine誌に発表された研究[3]により、水素分子が悪玉活性酸素を選択的に除去することが科学的に証明されました

生理学的安全性の確立

水素分子(H₂)には以下の特性があることが確認されています:

  • 体内で生理的に産生される物質であり、腸内細菌からも日常的に生成されています
  • 過剰摂取による毒性がないことが確認されています
  • 悪玉活性酸素(ヒドロキシルラジカル)にのみ選択的に作用し、生体に必要な善玉活性酸素には影響を与えません
  • 活性酸素と結合すると水(H₂O)に変化するため、極めて安全です

技術革新:水素化ホウ素系入浴剤の登場

最大の進化は、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH₄)を用いた新世代の入浴剤技術です。

従来のアルミニウム系入浴剤と比較して、以下の特徴があります:

従来型(アルミニウム+酸化カルシウム)の問題点

  • 急激な発熱反応(表面温度90℃)
  • 火傷の危険性
  • 反応の制御が困難

新世代(水素化ホウ素ナトリウム系)の特徴

  • アルカリ剤との組み合わせにより、穏やかで制御された水素発生が可能に[4]
  • 発熱が抑制され、安全性が大幅に向上
  • 微細な気泡として水素が発生するため、溶存水素濃度が長時間持続
  • 人体の皮膚近傍(弱酸性環境)で効率的に水素が発生

技術的メカニズム[4]

特許文献(WO2013081023A1)によれば、水素化ホウ素ナトリウムを第一・第二のアルカリ剤と組み合わせることで:

  1. 浴用水をアルカリ性に維持し、急激な水素発生を抑制
  2. 炭酸ガスの発生により浴用水が撹拌され、水素が効率よく溶解
  3. 微量かつ微小な気泡として水素が持続的に発生
  4. 弱酸性である皮膚近傍でより多く反応し、効率的に体内細胞の酸化を緩和

重要な注意点

ただし、水素化ホウ素ナトリウム自体は消防法で第3類危険物(禁水性物質)に指定されており[5]、取り扱いには専門知識が必要です。そのため、必ず製品化された入浴剤として、適切に安定化・配合されたものを使用することが重要です。製品選択時には、以下を確認してください:

  • 安全性試験を実施したメーカーの製品であること
  • 適切なアルカリ剤との配合により、安全に制御されていること
  • 第三者機関による品質確認がなされていること

2.水素濃度:測定技術の標準化と高濃度化の実現

2019年当時の課題

  • 水素濃度の測定方法が統一されておらず、メーカーによって表示がバラバラ
  • 「高濃度」という曖昧な表現が横行
  • 実際の濃度が不明確な製品が多数存在

現在の進展

測定技術の標準化

  • 溶存水素濃度の測定方法が標準化され、信頼性の高い測定器が普及
  • 多くのメーカーが具体的な数値(ppmやppb単位)で濃度を表示
  • 第三者機関による測定結果を公開する製品が増加

有効濃度の科学的解明

  • 入浴における有効濃度の研究が進み、0.2ppm以上で皮膚からの吸収が期待できることが示されています
  • 一般的な家庭用水素入浴剤・装置では、0.2〜1.0ppm程度の溶存水素濃度が実現可能

水素化ホウ素系による高濃度化

新世代の水素化ホウ素系入浴剤では:

  • アルカリ環境での穏やかな反応により、水素が空気中に逃げにくく、長時間高濃度を維持
  • 従来の電気分解式や発熱反応式と比較して、より安定した高濃度水素水の生成が可能
  • 皮膚近傍での局所的な高濃度発生により、効率的な経皮吸収を実現

3.入浴感:体感と科学的メカニズムの解明

水素の経皮吸収メカニズム

水素分子は宇宙で最も小さい分子であるため:

  • 皮膚のバリア機能を通過しやすく、入浴によって全身に拡散
  • 北里大学と慶應義塾大学の共同研究[6]により、特殊なミニブタを用いた実験で、水素風呂入浴時に血中水素濃度が上昇することが科学的に証明されました
  • 体表からの吸収だけでなく、呼吸による水素ガスの取り込みという両方の経路から効果を得られることが解明されました

具体的な体感とそのメカニズム

温浴感の持続

  • 水素の抗酸化作用により血管内皮機能が改善
  • 末梢血流が増加することで、入浴後の保温効果が持続
  • 通常の入浴と比較して体温上昇と持続が確認されています

皮膚の改善

  • 酸化ストレスの軽減により、皮膚のバリア機能が保たれる
  • 水分保持力の向上が期待できます
  • 2023年の研究[7]では、アトピー性皮膚炎患者6名が水素風呂に4週間入浴した結果、体幹や四肢の病変部で皮膚の乾燥が改善され、かゆみも軽減したことが報告されています

疲労回復感

  • 運動後の酸化ストレスマーカーが減少
  • 筋肉疲労の軽減に寄与している可能性
  • サッカー選手を対象とした研究では、水素投与により運動による乳酸産生が抑えられ、運動能力が向上したことが報告されています

4.科学的エビデンスの蓄積

主要な研究成果

基礎研究の成果

  1. 水素の選択的抗酸化作用(2007年、Nature Medicine)[3]
  2. 水素風呂の体内動態(2023年)[6]
    • 北里大学・慶應義塾大学共同研究
    • Archives of Medical Sciences. Civilization Diseases誌に掲載
    • 水素風呂入浴により血中水素濃度が上昇することを科学的に証明

臨床研究の進展

  1. アトピー性皮膚炎への効果(2023年)[7]
    • Hu, A., et al. “A pilot study to evaluate the potential therapeutic effect of hydrogen-water bathing on atopic dermatitis in humans”
    • Advances in Integrative Medicine誌に掲載
    • DOI: https://doi.org/10.1016/j.aimed.2023.10.003
    • 水素風呂入浴により皮膚症状とかゆみが改善
  2. 動物実験でのアトピー改善効果(2017年)[8]
    • Kajisa, T., et al. “Hydrogen water ameliorates the severity of atopic dermatitis-like lesions”
    • マウスモデルでアトピー性皮膚炎様病変の重症度改善を確認

研究領域の広がり

  • 酸化ストレスマーカーの変化
  • 皮膚バリア機能への影響
  • 自律神経系への作用(副交感神経活動の亢進)
  • 睡眠の質の改善
  • 運動後のリカバリー効果
  • がん治療の副作用軽減

研究者としての正直な評価

まだ「決定的」と言えるほどのエビデンスレベルには達していません。しかし、安全性が高く、一定の生理学的作用が確認されつつあることは事実です。特に水素風呂については、2023年の研究により人を対象とした有効性が示され始めており、今後のさらなる研究が期待されます。

5.賢い選び方:消費者が確認すべきポイント

製品選択の科学的チェックリスト

1. 水素発生方式の確認

電気分解式

  • メリット:繰り返し使用可能、メンテナンス次第で長期使用可
  • デメリット:初期費用が高額、メンテナンスが必要

化学反応式(入浴剤タイプ)

a) アルミニウム+酸化カルシウム系

  • 注意:発熱反応があり、火傷の危険性[1]
  • 国民生活センターにより注意喚起されています

b) 水素化マグネシウム系

  • 比較的穏やかな反応

c) 水素化ホウ素系(新世代)

  • 高濃度かつ安全性の高い水素発生が可能
  • アルカリ剤との適切な配合が重要

2. 安全性の確認ポイント

□ 溶存水素濃度が明記されているか(0.2ppm以上が目安) □ 第三者機関による測定結果があるか □ 安全性試験の実施が確認できるか □ 水素化ホウ素系の場合、適切に安定化・配合されているか □ 製品の使用方法が明確に記載されているか

3. 品質保証の確認

□ 過度な効果効能を謳っていないか(医薬品的表現は薬機法違反) □ メーカーの問い合わせ窓口が明確か □ 製造元・販売元の情報が明記されているか □ 適切な保管方法の記載があるか

4. 注意すべき製品

  • 水素濃度が測定・表示されていない製品
  • 「活性水素」「マイナス水素イオン」などの科学的に不明確な用語を使用している製品
  • 過度な健康効果を謳う製品
  • 製造元が不明確な製品

6.公的機関の情報

国民生活センターによる注意喚起

発熱反応を伴う入浴剤について[1]

水素を発生する入浴剤の注意点

厚生労働省関連

先進医療について[2]

  • 水素ガス吸入療法が2016年に先進医療Bに認定
  • 対象:心停止後症候群(院外心停止患者に対する水素ガス吸入療法)
  • 慶應義塾大学病院をはじめ、複数の医療機関で臨床研究が実施されています

まとめ:科学的に進化した水素入浴

2019年からの主な進化

  1. 安全性のエビデンスが大幅に蓄積
    • 医療分野での先進医療認定
    • 人を対象とした臨床研究の進展
    • 動物実験を含む基礎研究の充実
  2. 技術革新による高濃度化と安全性の両立
    • 水素化ホウ素系入浴剤の登場
    • アルカリ剤との組み合わせによる制御された水素発生
    • 発熱リスクの大幅な低減
  3. 測定技術の標準化により透明性が向上
    • 溶存水素濃度の数値化
    • 第三者機関による測定の普及
  4. 作用メカニズムの科学的解明
    • 経皮吸収と呼吸による取り込みの両経路の証明
    • 選択的抗酸化作用の確立
    • 血中動態の解明
  5. 品質管理された製品の増加
    • 安全性試験の実施
    • 適切な表示と情報開示

研究者からのメッセージ

水素入浴は「万能薬」ではありません。しかし、入浴科学の研究者として強調したいのは、水素入浴の価値は、日本が長年培ってきた入浴文化という基盤の上に、新しい科学的要素を加えることで、より質の高い入浴体験を実現できる可能性にあるということです。

特に、水素化ホウ素系の新世代技術により、2019年当時の主要な課題であった「発熱の危険性」と「水素濃度の不安定さ」という2つの問題が大きく改善されました。これは入浴科学における重要な技術革新と言えるでしょう。

温泉・サウナと同様に、水素入浴も心身のケアの選択肢の一つとして、科学的理解を深めながら上手に活用することをお勧めします。

参考文献・情報源

公的機関

[1] 国民生活センター「発熱反応を伴い水素を発生するというパック型入浴剤−使い方によっては、やけどのおそれも−」
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20160721_1.html

[2] 厚生労働省「先進医療の概要について」
水素ガス吸入療法(心停止後症候群)が2016年に先進医療Bに認定

学術論文

[3] Ohsawa, I., Ishikawa, M., Takahashi, K., et al. (2007). “Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals.” Nature Medicine, 13, 688–694.
https://www.nature.com/articles/nm1577

[4] 特許文献 WO2013081023A1「水素化ホウ素ナトリウムを含有する還元処理剤」
https://patents.google.com/patent/WO2013081023A1/ja

[5] 厚生労働省「職場のあんぜんサイト:化学物質:水素化ホウ素ナトリウム」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds_label/lab16940-66-2.html

[6] 北里大学・慶應義塾大学共同研究(2023)
ミニブタを用いた水素風呂の体内動態研究
Archives of Medical Sciences. Civilization Diseases誌掲載
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230712-2726041/

[7] Hu, A., Yamaguchi, T., Tabuchi, M., et al. (2023). “A pilot study to evaluate the potential therapeutic effect of hydrogen-water bathing on atopic dermatitis in humans.” Advances in Integrative Medicine.
https://doi.org/10.1016/j.aimed.2023.10.003

[8] Kajisa, T., Yamaguchi, T., Hu, A., et al. (2017). “Hydrogen water ameliorates the severity of atopic dermatitis-like lesions and decreases interleukin-1β, interleukin-33, and mast cell infiltration in NC/Nga mice.”

補足情報サイト


免責事項

本文書は入浴科学に基づく情報提供を目的としており、医学的診断や治療を目的としたものではありません。疾患がある方、治療中の方は必ず医師に相談してください。水素入浴剤の使用に際しては、各製品の使用説明書をよく読み、正しくご使用ください。

作成日: 2026年2月
監修: お風呂・温泉・サウナ専門研究者